徒手的理学療法とは
徒手的理学療法(Manual Physical Therapy)とは、各系(感覚器系、結合組織、筋系、神経系、関節系、循環系、内臓系など)を評価し診断した上で、最も適する治療手技を選択する方法です。すなわち、体性機能異常に起因する神経学的疾患、整形外科学的疾患、慢性痛疾患の症状や徴候に対して、その原因を身体の各系別に総合的な評価と鑑別診断と治療とを用いてアプローチする治療手技といえます。言い換えると、徒手的理学療法は疾患を選ぶのではなく、人間だれしもが持つ構造に対してアプローチする方法といえます。
一方、徒手療法(Manual Therapy)と称する一連の治療手技の歴史は古く、これまで種々の体系が開発され、同時にそれらの体系は時代とともに変遷してきました。近年、これらの治療手技は理学療法士の重要な治療手段の一つとして注目され、種々の研究グループ、あるいは世界理学療法連盟World Confederation for Physical Therapy(WCPT)のサブグループである International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists (IFOMPT)などでも研鑽され、臨床的に広く応用されています。
徒手療法は、狭義には運動療法を含まない治療手技として解釈されますが、広義には機械や物理器具を用いずに徒手を用いる運動療法であれば徒手療法に含まれると解釈されます。ただし現状では運動療法と徒手療法とは区別して考えられることが多く、関節可動域改善運動や筋力増強運動、協調性改善運動などの運動療法を伴わない治療手技が徒手療法とされ、かつ整形外科疾患を中心に展開されると理解される傾向があります。
しかし本来、治療手技は患者の身体状態に合わせて選択されるべきであり、治療手技に疾患を当てはめるべきではありません。患者の身体状態に対して治療手技は選択されるべきであり、患者の身体状態の変化・回復に合わせて手技を取捨選択していかなければならないのです。そのためには、徒手療法と運動療法という分類ではなく、構造的アプローチいわゆる徒手的理学療法と機能的アプローチにという身体状態に合わせた治療手技選択の考え方からの分類が必要となります。
本研究会は、各系(systems)に対する構造的アプローチいわゆる徒手的理学療法を原則としていますが、その背景には、包括的アプローチという枠組みの理解があります。理学療法における包括的アプローチとは、人体の構造的な面から発する症状や徴候に対して直接的なアプローチを行うための構造的アプローチと、神経筋骨格系の機能的向上を目的に行われる機能的アプローチの両者を含んでいます。なかでも、徒手的理学療法では、理学療法を行う過程で患者の呈する症状や徴候などの変化を的確に捉え、それに臨機応変に対処しつつ、患者の有する問題を構造学的な側面から解決する際の基本的な考え方、いわゆるclinical reasoningが大切となります。理学療法が最も十全な形で実施される形態は、包括的アプローチと呼べるものであることは当然と思われますが、本研究会では理学療法を包括的アプローチとして捉える大きな視野を課題として意識しつつ、構造的アプローチいわゆる徒手的理学療法に焦点を絞って活動を行っていく所存です。
本研究会を通じて種々の治療手技をより多く学ぶことで、多種多様な症状、徴候を呈する患者に対処する幅が広がり、同時により適切なアプローチが可能になることへの手掛かりになればと願っています。さらに、今後とも個々の治療手技がそれぞれに科学的検証を重ねて発展していくことが望まれることはもちろん、こうした手技が理学療法士の技術体系の中で、構造と機能という基礎を共通項として、多様性をもった技術体系として統合・包括されることを祈念してやみません。